トランクを横に置き彼女を待った。裏のガレ−ジから右ハンドルのスタ−レット(トヨタ)が出てきた。この国は日本と同じ左側通行なので、国際免許を持参すればレンタカーでドライブが可能である。トランクに荷物を載せ終えると、彼女は助手席のドア−を開けて、横の座席に座るよう合図をしてくれた。今日の彼女はちょっぴり濃いめの化粧をしている、栗色の髪の毛がよく似合う。車は滑るように発車した。彼女の運転は安定している。昨日のタクシ−とはえらい違いである。方向は昨日タクシ−が通ってきた道路と同じで、時々タクシ−や自家用車にすれ違う。不思議なのは、大型トラックと単車は一台もお目にかからない。黒煙と騒音がないことは心を和ましてくれる。5分ほど田園地帯を走ると、古いレンガ造りの住宅が現れ始めた。丘の上に大きな建物がある町が近いようだ。Y字型の三叉路に出た。
広い「国道」との合流点なのに信号はない。前方のバス停にロンドン同様のダブルデッカ−が停車した。日曜日の為なのか乗客は少ない。
バス停付近の道路に沿って、20軒ほどの商店が一列に並んでいる。数台の車が通過すると静かになった。彼女は三叉路を注意しながら右折をした。左折側は空港への道だ。彼女は「前方にバ−が見えてくるわよ。私と彼女は時々飲みに行くの」と、僕の顔を見ながらニッコリ笑った。「彼女」とは、これから紹介してもらうB&Bの女将の事で、彼女の古くからの友達である。右折をすると緩やかな上り坂になっている。歩道がきっちりついている。2〜3軒の小さな店と、白い大きな二階建ての店がポツンと建っている。店はカンバンは出ているが閉まっている。彼女はその建物を指差ししながら、「この店よ。パブで夜しか開いていないの」と言った。車の速度計を見ると50kmの値を示している、経済的で安全な速度だ。「パブ」を過ぎると、道路から奥に草原が広がっている。中に崩れた高い灰色の石壁が建っている。彼女は「あれは、中世の城の廃墟なのよ」と言った。道はそこから緩やかな登り坂になった。交差点の奥に社名入りの大きな工場がある。道の両側に、古いレンガ造りの家がわずかばかり建っている。
彼女はスピードを落とし「着いたわよ」と言った。住宅が道路に沿ってきちんと建っている。200坪程の敷地に前庭を広く取った洋館である。「ここよ」とその一番手前の館を指さした。しかし、彼女はそこに車を横付けせず少し先で駐車した。僕に「荷物をもって玄関まで来て下さい」と言い残し、車を降りB&Bに向かった。僕は「ガラガラ」とトランクを引き、彼女の後を追った。正面玄関は「県道」に面している。道には歩道があり、少し奧に低い塀と鉄の門扉がある。庭の芝生に僅かな花が見えるがガレ−ジはない。200坪位の敷地に建った洋館である。門前で、クラ−ク婦人とオ−ナ−婦人が立ち話しをしている。二人に気を使って庭横で待っていた。しかし、話が終わりそうもないので、さらに接近するとやっと気付いてくれた。二人は「ごめんなさい」と言いながら僕の方を向いた。仲良主婦の世間話はつきないものでどこの国も同じだ。クラ−ク婦人が僕をオ−ナ−に紹介してくれた。2人が親しそうに話すので、「いい友達ですね」と言うとクラ−ク夫人が、「私達は飲み友達で宝くじを買う仲間でもあるのよ」と言ってニヤッと笑った。彼女はオ−ナ−の夫人に必要なことを告げて、「また電話するわ」と言って彼女にバイバイをした。僕には「お元気でね!」と、手を振りながら微笑みとともに去って行った。
|